詳しい版
判決の中身
【判決】津田健次郎さんの声の裁判。「棄却」の2文字だけ読むと、いちばん大事な判断を見落とす
AIで声をまねた動画188本をめぐる裁判で、東京地裁は人の声にもパブリシティー権が及ぶと初めて判断した。請求が棄却されたのは、消させる動画がもう残っていなかったからだ。
9月30日の判決の日、Xでは「棄却」の2文字だけが広がった。「なんで現行法で守られないのか」と怒る投稿は、翌日の午後に私たちがポストを出した時点で29万回以上見られていた。そのポストでも書いたとおり、判決の中身はむしろ逆だった。
「なんで現行法で守られないのか本当に意味が分からない」。津田健次郎さんの判決に怒るこの投稿は、29万回以上見られている。でも判決の中身は、むしろ逆だった。 棄却されたのは、相手の投稿アカウントがすでに削除されていて、消す対象がなかったから。9月30日の東京地裁判決は、声にもパブリ…
何が起きていたのか
氏名の分からないアカウントが、津田さんの声に似せたAI音声で、都市伝説やオカルト、雑学の動画を出し続けていた。本数は188本。共同通信、時事通信、朝日新聞、オリコンが同じ数を報じている。テレ朝NEWSだけは「180本以上」と書き、私たちのポストもそれに合わせていた。
- 投稿者津田さんの声に似せたAI音声の動画を188本投稿時事通信
- 津田さん側動画サイトの運営会社に、動画の削除を求めて提訴朝日新聞
- 投稿者アカウントを削除。動画のデータは6月にサーバーから消えた弁護士ドットコム
- 東京地裁声にもパブリシティー権の保護が及ぶと判断。削除の対象がないとして請求は棄却日本経済新聞
- 日本俳優連合判決を「大きな成果」と評価する声明を出す日本俳優連合
津田さん側は、最初から損害賠償を求めていない。求めたのは動画を消すことだけだった(弁護士ドットコム)。
判決が言ったこと
朝日新聞とテレ朝NEWSによると、判決は一般論として、人の声は肖像と同じく人格の象徴で、パブリシティー権の保護の対象に含まれるとした。声を、もっぱら人を引きつける力を使う目的で利用すれば、侵害になりうるとも書いている。
声は、顔と同じように守られるもの。裁判所がこれを言葉にしたのは初めてだ。
判決が言わなかったこと
ここを取り違えると、記事の読み方がずれる。弁護士ドットコムと朝日新聞、時事通信が整理しているとおり、判決は次の点を判断していない。
- 問題の動画が、津田さんの声を「もっぱら」利用したものだったか
- 実際に権利の侵害があったか
- 運営会社が、投稿者とは別に責任を負うか
つまり「AIで声を盗んだと裁判所が認めた」とも書けない。勝ち負けの言葉で片づけると、どちらに転んでも中身を落とす。
原告側の代理人は、目的を達成したと話した
当初の目的は完全に達成した
消したかった動画は、もう消えている。そのうえで、声の権利が判決文に書かれた。朝日新聞と弁護士ドットコムは、代理人が控訴しない方針を示したと報じている。
一方で、早稲田大学の上野達弘教授(知的財産法)は、問題の動画が権利の侵害にあたるかどうかまで判断されなかったことを「いささか心残り」と話した(弁護士ドットコム)。賠償を求めなかったため、こうした論点が判断されずに残ったという見方だ。教授は、そこには「さまざまな事情があったものと思われます」とも述べている。
声のまねで誰がいくら得ていたのかも、この裁判では問われていない。
数字は「誰が言ったか」で読む
好きな声が、知らない動画でしゃべらされていた
本人の声が、本人の知らない動画で188本もしゃべらされていた。好きな声が、知らないところで勝手に都市伝説を語っている。ファンにとって、これほど気持ちの悪いことはないと思う。
だから、判決の「人格の象徴」という言葉がうれしい。声優の声は、顔写真と同じように、その人そのものだと裁判所が書いた。次に誰かの声がまねされたとき、この一文が引かれると思う。
日本俳優連合は10月5日の声明で、津田さんと支えたスタッフに「深い敬意を表します」と書いた。声で仕事をしている人たちが、まず感謝を口にした。
「棄却」の2文字が広がった日に、判決文は声を人格の象徴と書いていた。この一文のほうを、ずっと覚えておきたい。
この記事のもとになったポスト
出典
- 日本経済新聞2026-09-30声にもパブリシティー権、初の司法判断 津田健次郎さんの請求は棄却
- 時事通信(nippon.com)2026-09-30声にも「パブリシティー権」初判断=生成AIで模倣、人気声優訴え
- 共同通信(熊本日日新聞)2026-09-30声も「人格の象徴」初判断 AI声模倣動画訴訟、東京地裁
- 朝日新聞(Yahoo!ニュース)2026-09-30「声のパブリシティー権」認める判決 声優の津田健次郎さんの裁判
- テレ朝NEWS2026-09-30声にもパブリシティー権の初判断 津田健次郎さんの請求は棄却 東京地裁
- 弁護士ドットコムニュース2026-09-30津田健次郎さんの声をめぐる判決(代理人のコメント)
- 弁護士ドットコムニュース2026-10-01判決が判断しなかった点と専門家の見方
- 日本俳優連合2026-10-05声のパブリシティー権を認めた判決についての声明
- ORICON NEWS2026-10-05日俳連、津田健次郎の訴訟の判決に声明
この記事の確かめ方
- 事実は、上の出典と元のポストで確かめた範囲だけを書いています。確認日は10月11日です。
- 「〜と報じた」と書いたところは、その媒体の報道です。本人や所属先が認めたことと区別しています。
- 「好き」「悔しい」「こう見た」は、書き手の見方として書いています。
- 確かめられていないこと:判決が確定したかどうか(控訴期限が過ぎたか)
- 確かめられていないこと:津田さん本人と所属事務所の、判決後のコメント
間違いを見つけたら、Xの@YYO1589107へDMで教えてください。